デビュー
夫とその先輩が起ち上げた会社はすぐにうまくいかなくなった。
社員もそこそこ増えてきていたというのになにがあったのか。
出産を済ませた私は子どもにつきっきりで、状況がまるでわからない。
給料が振り込まれなくなると、社員たちは次々と会社を去った。
当然だ。
みな、生きていかなくてはならないのだから。
社長である先輩は我が家にとてもよくしてくれていたし恩もあるが、0歳児を抱えて収入がゼロとなれば、こちらも穏やかではいられない。
何度となく会社がどうなっているのか夫に尋ねていたが、もう少し待ってという言葉しかもらえず。
少し強めに問い詰めたところ、社長が飛んでいることを夫がボソボソと話し始めた。
「すぐに会社辞めなさいよ」
何度もそう言ったが、夫は尊敬している先輩をただひたすらに待ち続けた。
どうやら、こっそりと連絡は取っていたようで、なんとかするから待っていろと言いくるめられていたらしい。
給料がもらえなくなって3か月目。
堪忍袋の緒が切れた私が、
「社長に電話しなさい! 私が話をする!」
と怒りだすと、夫は自分が話をするからと私をなだめてきた。
そうして退職する旨を社長に伝えた夫は、裏切り者だの、バカだのと、相当怒られていたようだった。
電話を終えた夫が部屋の片隅で膝を抱えていて、なんともシュールな絵面だったのを覚えている。
そうして、退社が決まったわけだが、一難去ってまた一難。
今度は、住んでいたマンションを立ち退かなければいけなくなった。
そこは会社の寮として住んでいたため、住み続けるわけにいかなかったのだ。
消費者金融からの借金で生活はカツカツだったことに加え、
給料が振り込まれていなかったおかげで、貯金はほぼゼロ。
引っ越すにもまたお金がかかるわけで、私は頭を悩ませた。
そんなときでも0歳児は待ってはくれない。
何か行政の支援があったのかもしれないが、当時の私はそこまでの頭がまわらず、ただただ悩み続けた。
そして1つの決断を出すことになる。
夜の世界デビューだ。